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あったような、なかったような。
犬猿戦国パラレルにひっそり滾ってた頃がありましてねぇ。
年の差身分違いの地味ーな感じの話で。
出会い編が出てきたのでひっそり置いておきます。



 天国は、猿野の一味の者であった。使いっ走りの用一つ一人ではこなせぬ子どもである。
 気づいた頃にはこの集団に居たが、親は他所の者であったらしい。天国は親の付けた名であるが、ここでは誰もそれを呼ばぬ。短くテンと呼ばれていた。
 猿野は素破の一団であった。女子ども含め50人からなる所帯で、羊谷の国に召されては戦場を住処とする。
 素破は野に伏せ、軍勢を背に負う下賎の者の集団である。男どもは闇夜に道を開き、馬の足元にひれ伏して血祭りへ導く。女どもは水を得て腰を下ろす場を作る。子らは殺し合いの足元に隠れ、敵に石を投げ、逃げる。戦場にはなくてはならぬが、しかし名も残らぬのがかの者どもであった。水面に投げる撒き餌のようなものだ。投げねば始まらぬ、そして誰も惜しまぬ。50名女子どもに至るまで使い捨てだ。長たちともなれば多少は違うかもしれないが。

 テンは戦さが嫌いであった。
 ひとたび起これば昼も夜もなくなる。大人どもの眼は血走る。始めは常より多く飯が食えるが、次第に減る。くたびれ、血の匂いを嗅がされ、そして、誰か戻らぬ者が出る。目の前で死ぬ者も居る。戻らぬ者は探されることなく、死んだ者は打ち捨てられる。生きて帰れば、次の戦場へ行かねばならぬ。
 戦さのたびに、己は人に非ずと肝の中まで刻まれる。
 しかし、乱世が終われば猿野から人に成れるかどうかは、テンにはわからなかった。

 出遭ったのは秋の深い頃であった。
 逃げる間に、皆から逸れた。鬱葱とした山の中、独り身は心細いがテンとてこの土地の素破だ、地理には明るい。朝には村に戻れようと言い聞かせ、心を落ち着けた。それより火だ。敵に見つかったとて子ども一人、どうされようはずもない。面倒なことにはなるだろうが、凍えて死ぬよりはいい。

 人心地ついた頃に、近づいてくる者があった。馬と人、ひとつずつの気配に、逃げることもないだろうとテンは動かなかった。
 誰何の声が上がり、現れたのは馬を引いた若い武将であった。知った馬印に、咄嗟に平伏す。
「猿野の者で、テンと申しまする」
 震える声で告げれば、武将の気がほんの少し緩んだ。とるに足らぬ汚い小僧だが、確かに味方である。
「そうか、俺は犬飼だ。当たらせてもらうぞ」
 男は手綱を放り投げ、どっかりと焚き火の前に腰を下ろした。犬飼と言えば羊谷の重臣、戦場での指揮をほぼ任された武将の名である。この男が、猿野を遣い、使い捨てている者かと。テンは震えた。
 投げられた手綱を頃合の枝に括りながらちらりと目をやれば、照らされた男の顔は精悍の一言に尽きた。浅黒い肌にキツい目。不躾にも見惚れるほどの男だった。

「テンと言ったか。何故こんなところに居る」
「皆と、逸れました」
「そうか」

 戦局について2、3訊ねられ、言葉少なに答えるうち、テンは犬飼に惹き付けられた己を自覚した。
 唐突な思いに戸惑う。
 この人に、帰って来いと言われる身分に生まれたかった。
 せめて捨てられたくないと思った。

 ふと口からこぼれた。

「戦さは、終わりませぬか」
「終わらぬな」

 さらりと返る答えに、斬られたように臓腑が痛んだ。


 戦さが続き、己が生き延びる限り、この人に使い捨てられ続けるのだと。

 それはテンが感じた、はじめての悲しみであった。
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